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評価:
山川 静夫
講談社
¥ 1,785
(2009-09-29)
Amazonランキング:
3851位
Amazonおすすめ度:
大向こうにも、さまざまな人生が…
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学生時代に歌舞伎の三階席に通うほど歌舞伎狂となり、そのまま大向うの会に入会を認められて、以降NHKの現役アナウンサーとして活躍しながらも、大向うであり続けた山川氏が綴る人情味あふれる歌舞伎座三階ばなしである。自らの青春時代とともにあった歌舞伎座三階席への心からの惜別と大向うに対する深い愛情で、大向うの人々が活写される。
歌舞伎を観劇していて、役者の台詞や出に何ともいえず絶妙なマでかかる大向うの掛声は、役者と観客が一体化する仕掛けとして歌舞伎ならではのものである。古今東西の演劇で、このような劇中の掛声は例がない。
しかしの成立と歴史は意外にも定説がないようで、山川氏は折口信夫の神楽の見物考から、悪態とほめことばが掛声の原点であり、歌舞伎に与えたさまざまな影響を論じている。例えば化粧声であり、悪態をつく助六の揚巻をあげる。また舞台中で役者同士がほめあう場合も多く、その名残が今でも贔屓の役者は誰それと、別の役者が名前を言う形で残っている。観客が役者をほめる声をかけるのは当然の成り行きで、当初役者の屋号がない時代は、例えば市川〜〜と呼んでいたようだという。
我々も日常生活で、例えば「よいしょ」と自らを励ますように声をあげることがよくある。また邦楽でも奏者が発する掛声は日本独特のものであるが、気合を入れ、息をあわせる役目を果たしているようだ。
これらを勘案して掛声の本義は次の五点であり、大向うの掛声が目指すものとびたりと符合すると筆者は指摘する(本書二○七ページ。ちなみに本書のページはすべて漢数字が使用されているのは好ましい)。
一、相手をほめ、励ます。
二、自分に気合を入れる。
三、自他を協調させ、潜在的なエネルギーを引き出す。
四、緊迫感を与える。
五、生きている喜びや活力を生み出す。
しかし、掛声はただかければいいというものではない。筆者は田之助が忘れられない大向うの声を引き合いに出し、「芝居のふんいき・状況に合った声の調子」「役者に対する温かいおもいやり」の二つに集約されるという指摘は永年大向うとして声を掛け続けてきた山川氏ならではの至言であろう。
私も時々声を掛けたくなる衝動にかられることがある。しかし、マは何とか分かっても、大向うの声の出し方には年季がいるようで、力一杯声を張りあげるのは舞台まで掛声が届かず、またかえって周辺の人々の騒音になってしまうという指摘は、私の観劇体験からも十分納得できる。大向うのあの艶と張りのある掛け声は、そうそう一朝一夕には出来ることではないだろう。
本書は歌舞伎座三階席とともにあった筆者の青春の書であると同時に、学生の筆者を温かく迎えてくれた大向うの人々の、粋でいなせな群像を貴重な写真とともに記録した記念すべき書である。歌舞伎を愛好する方は、一度は本書を手にとってみられることをお薦めする。きっと歌舞伎観劇がなお一層面白くなることであろう。
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