映画「花のあと」公式サイト
毎年のように映画化される藤沢周平原作の海坂藩ものの小説。今回は『花のあと』である。原作は以登女お物語と副題があるように以登という武家の老女が孫に若き日の恋物語を語って聞かせる形をとった文庫本で40ページほどの短篇である。
以登は原作では必ずしも美女ではないようだが、映画の以登を演じる北川景子は目鼻立ちのはっきりとした現代的美人女優で時代劇にはむいていないのでは、と実際に映画を観るまで懸念していたが、それはまったくの杞憂だった。内に秘めた芯の強さとひたむきな慕情を抑制した演技で見事に演じ切っていた。目力というのだろうか、北川景子の目は印象的だ。以登の心の内を目で多彩に表現していた。殺陣はまことに凛々しい。
以登が秘かに恋い慕った孫四郎はバレエ出身の宮尾俊太郎が映画初出演で演じ、清潔な役作りには好感を持てた。以登の許婚才助は、風采はあがらないが、いかにも名前通りの才人で、しかも大食漢。孫四郎とは好対照だが、暖かく以登を見守り、孫四郎の敵討の手助けをする。甲本雅裕が達者に見せた。
父親役の國村隼、友人の医師柄本明、語りには藤村志保とヴェテランを配して、手堅い。とくに國村隼は、何事ものみ込んで、以登のことを理解して応援するよき家父長を好演している。加えて、腹黒い奸計で孫四郎を罠にかけた用人の藤井勘解由を亀治郎が重厚に演じていた。実は映画を観るまで迂闊にも亀治郎が出演していることに気が付かなかった。『武士の一分』の時の三津五郎のように歌舞伎役者がこのような敵役で出ると重みが増す。
山形県にもロケをしたと思われるが、海坂藩の四季の移ろいを背景に描かれた女武道の青春はひたすら美しい。