徒然なる日々の条々を、六条亭が日記風に綴ります。本屋「六条亭雑記」もよろしく。
 
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【2018. 08. 18 (土)】 author : スポンサードリンク
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長谷部浩『菊之助の礼儀』(新潮社)を読む


著者と菊之助との交友、対話録。著者が私的アドヴァイザーの立場で多くの菊之助の舞台に係わったことが分かる。『NINAGAWA 十二夜』もその大きな成果の一つ。

ここに書かれている数年は菊之助が意識して父菊五郎の後継者を目指して役柄を広げて来た時期。著者の著した『菊五郎の色気』で祖父梅幸がいかに子息に七代目を継がせようか腐心したエピソードがあるが、それを知って菊之助は音羽屋の跡継ぎとしての意識がよりたしかのものになった形跡がある。この数年の菊之助の演じた役は初役の多さも含めて、目次の外題を見ても女形は立女形、立役も世話物から時代物まで実に幅広く、目を瞠るばかりである。

しかもそのどれも確実な成果をあげてるのだが、決して満足せず更なる高みを目指して真摯に取り組む。この自制心を著者は「菊之助の礼儀」と呼ぶ。最近の意欲的な舞台の数々はまた新たな挑戦を期待させる。四十までには新作を、四十を過ぎたら弁慶を!には歌舞伎への愛がある。

菊之助に対して父菊五郎はある意味では本人の自発性に任せ、女形の大役を玉三郎の教えを請わせるなど要所を押さえた指導をしていることも見逃せない。播磨屋を岳父としてその藝をも吸収しようとしている菊之助の今、そして今後を語るには本書は欠かせない本であろう。
【2014. 11. 29 (土)】 author : 六条亭
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丸谷才一作品名づくしの「知らざぁ言って……」ー関容子『勘三郎伝説』より
関容子氏の『勘三郎伝説』(文藝春秋)については既にレビューを書いていますが、勘三郎と丸谷才一との交流について一章があてられていることは意外でした。私も劇場で時々丸谷氏を見かけたことがありましたが、これ程の深い交流であったとは思いもかけませんでした。

方や歌舞伎役者、こなた文学者、それも小説から文芸批評、エッセイ、翻訳等今までの日本文学の常識を遙かに越えたスケールの大きい文学者です。丸谷氏は歌舞伎の枠を越えて活躍する勘三郎に己を重ね合わせていたのでしょうか?

さて、肝心の本題です。平成七年に丸谷氏が古希を迎え、「「直接原稿を手渡したことのある編集者たち」を何十人か築地吉兆に招いて、お祝いの会が開かれる」と関容子氏が聞いた時のエピソードです。関容子氏自身はそれにあてはまらなかったが、「文春編集者の竹内修司さん(『中村勘三郎楽屋ばなし』の担当だった)が、丸谷さんの作品名づくしで弁天小僧の「知らざぁ言って……」のパロディを作った、と聞き、これを中村屋に朗読してもらってテープに入れましょう」と請け合い、会に間に合わせたのですね。その作品名づくしが傑作ですので、以下に引用させていただきます。

「知らざぁ言って聞かせやしょう。エホバの顔を避けてより 賑やかな街遠く見て 年の残りを数えつつ 幾夜寝ざめの笹まくら たった一人の反乱と 人は言えども大きなお世話 好きな背広は大江戸の 大名火消しのウロコ型 軽いつづらで心も軽く めぐりめぐりし日本の町 見わたせば 柳桜をこきまぜて 夕べは耳に鳥の歌 みみづくの夢をむすぶもよし 夜明けのおやすみも気随気儘 これぞ男ごころの遊び時間 雁のたよりに誘われて 居を定めしはさんま坂 犬だって散歩するこの坂を 裏声で君が代歌い過ぎ行けば 折からつのる横しぐれ 青い雨傘さしかけし 女ざかりに血道を上げ 低空飛行も二度三度 さてこそ挨拶ぁむづかしい ここらで夜中の乾杯と めでたく七十路迎えたる 丸谷のジョイスたぁ 俺がことだ」

さて、いくつの作品名が入っていたでしょうか?皆さま、試してはいかがでしょうか?

中村屋が「大名火消しのウロコ型、って『忠臣蔵とは何か』のことだね。さんま坂は目黒の先生だからか。でも丸谷のジョイスって何?」と聞いたとは、丸谷氏がジョイス研究からは出発したことを知らなかった訳ですから、愛嬌のある話です。

いずれにしてもこの文学と歌舞伎のコラボの録音テープ、中村屋の七五調の名調子を聞くことができると思うと、ぜひとも聞きたくなってしまいます。
【2013. 12. 08 (日)】 author : 六条亭
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関容子『勘三郎伝説』(文藝春秋)を読む


長年十八代目勘三郎と親交があり、時には「母親代わり」とも言われた関容子氏の見た素顔の勘三郎を綴ったエッセイ集。主に文藝春秋に連載したものに大幅加筆と書き下ろしを加えているとのことです。

第一章「初恋の人に銀の薔薇を」においては惜しくも事故により48歳で亡くなった太地喜和子との真剣な恋の話を著者が勘三郎から直接聞いたエピソードとしてありのままに書いています。「この恋なくしては今の自分はなかった」と本人が語り、「人が人を本当に好きになるということは、こんなにもその人生に深く根をおろすものなのか」と著者が感じ入った通り、太地喜和子も情熱的な女優、勘三郎が真剣な恋に落ち、その後の役者人生に色濃く痕跡を残したことが分かります。しかし、勘三郎の母親をはじめ周囲の反対でこの恋は実りませんでした。中村屋の御曹司としてはそれも無理なかろうと思います。太地喜和子が事故死した時生前に約束した銀の薔薇百本を霊前に供えたと言いますから、その恋は本物だったのでしょうね。

第二章以降は勘三郎と仁左衛門、海老蔵、作家の丸谷才一との交友などがエピソード豊かに描かれます。同じ歌舞伎の世界に身を置いていても序列の厳しいところですから、海老蔵のように通常22歳も歳下の役者が勘三郎と対等に語り合うことはないそうです。しかし、それを著者が対談する企画を立てて、以降海老蔵は兄さん呼んで私淑したと言います。夏祭を習いにアリゾナの別荘にまで海老蔵が行ったことも書かれています。

丸谷才一との交友も著者が仲立ちをしていることが分かります。二十数年続く交友で中村屋は丸谷才一から「わたしの若い友人」と書かれ、対談の相手にしばしば指名されます。丸谷才一は座談の名手で、座談のみの著作も多数出ています。その中で中村屋の会話における頭の回転の速さには丸谷才一も感心していたようです。丸谷才一の古希の祝いにおける作品づくしで弁天小僧の「知らざぁ言って……」のパロディ(文春編集者の傑作!別の機会に取り上げたいと思います)を中村屋が朗読したテープを著者が頼み込んで間に合わせたエピソードも楽しいものです。

「新しい世界への挑戦」「夢の地図」の章では歌舞伎以外の舞台、テレビドラマ、コクーン、平成中村座への果敢な挑戦が語られます。歌舞伎で勘三郎を観続けて来た読者には読むのが辛いような疾走ぶりです。本書を読むと天才子役として子供時代から超多忙だった中村屋は常に夢の芝居を実現するために闘い、怒り、笑い、泣いていたようです(串田和美の追悼文を借用)。そして本書でもあげられている歌舞伎以外の人々との交友も勘三郎を稀有の歌舞伎役者とすることに大いに寄与したと思います。

しかし、芝居の神様は無慈悲にもわれわれからこのかけがえのない役者を早々と召してしまいました。中村屋が『助六』を平成中村座で出すことを予定していたといいますから、まさに痛恨の極みです。

身近にいた著者は没後早々に本書を書くことはとても辛いことだったと想像できます。しかし、努めて感傷を抑えた冷静な筆致で十八代目勘三郎の姿を描き、まさに伝説とすることに成功したのです。
【2013. 11. 29 (金)】 author : 六条亭
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中村小山三『小山三ひとり語り』(演劇出版社)を読む


中村屋三代に仕える93歳の現役歌舞伎俳優(女形)、中村小山三の聞き書きです。聞き書きは矢口由起子の手になるもの。雑誌「演劇界」に2年8ヵ月連載されたものの待望の単行本化です。連載中は欠かさず読んでいましたが、やはりこうしてまとまって読むとまた格別の味わいがあります。

ご本人が「おしゃべりするのは大好きですよ。しゃべり始めると止まらなくなって、周りの人に「しゃべり過ぎると、また鼻血が出ますよ」と叱られるくらい、話し相手がいるってうれしいことなんですよ」(本書275ページ)とありますように、とにかくその小山三が目の前でおしゃべりをしてくれているような語り口は魅力的です。

とくに大正時代の下町言葉と思われるものが頻繁に出てきます。「鳥越」は「トリコイ」(正確にはイとエの間をちょっと巻き舌で早口に言うそうです)、「寒い」は「さぶい」、そして小山三が約90年を役者として過ごす劇場は「芝居」ではなく「しばや」となります。まるで世話物の長屋のおかみさんの話を聴いているような錯覚を覚えます。

小山三は亡くなった雀右衛門と同一の生年月日というのも因縁めくのですが、子役時代から交流があったことも語られています。小山三の初舞台は大正15年の本郷座だったそうですが、二長町と言われた市村座はじめ今はもうない芝居小屋の話をできる人はもう他にはいないでしょう。第三期歌舞伎座開場が大正14年です。小山三の役者人生は二代にわたる歌舞伎座の歴史とも重なりあいます。

十七代目勘三郎に4歳で弟子入りしてからの多種多彩なエピソードの面白さは本書を読んでいただくしかありませんが、私個人としては次の2点が気に入っています。

(1)本書では小山三十種として当り役が十種上げられており、演じるにあたっての工夫が語られています。その筆頭とも言えるのが『籠釣瓶花街酔醒』で妖刀籠釣瓶の餌食となる女中お咲です。柱巻きのような倒れ方のみならず、同時に帯揚げがはらりとこぼれるのはたしかに難しいでしょう。ご本人は「企業秘密」と言っています。本書冒頭で歌舞伎座さよなら公演十七代目二十三回忌追善興行で、小山三が病気で入院してしまい出演できなかったのですが、千穐楽一日のみ頼み込んで出演したエピソードが出てきます。私はちょうどこの日を観劇していましたので、感銘深いものです。しかも、その後奇跡の復活を遂げて、今なお現役で舞台に立っているのですから、凄いことです。

(2)後見の難しさが『三つ面子守』や『奴道成寺』を例にして語られていますが、これらはお面をかぶり替えるので、我々観客でもその難しさは分かります。ところが何でもないようにやっている『鏡獅子』や『紅葉狩』で後ろに放り投げられた扇子を受け取るのが大変だと言います。そして二枚扇はまったく同じものなので、左右を替えてはいけないそうです。踊り手が何日も使っていると使い慣れてしまい、左右を替えると使いにくいというのはなるほどと思います。

この他みのり座、若草座などの研究会の話、そしてとっておきのナイショの話など読みどころに溢れています。

巻頭に多数の貴重な写真が収録されていて、本書の価値を高めています。最後に小山三の語り口を巧みにまとめ、本聞き書きを作った矢口由起子氏に賞賛の言葉を送りたいと思います。
【2013. 11. 20 (水)】 author : 六条亭
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石山俊彦『歌舞伎座五代 木挽町風雲録』(岩波書店)を読む


著者は共同通信で文化部記者として、永年にわたり歌舞伎をはじめ舞台芸術全般を取材、と著者紹介にあります。著者の記事を無署名記事で知らずに読んでいた可能性があります。

本書は歌舞伎座百二十五年の歩みを主として興行主に焦点を当てて書かれたものです。したがって、福地桜痴、田村成義、そして松竹の創業者の一人である大谷竹次郎が主役で、役者は背景になっている印象があります。

第一章では歌舞伎座を建てた福地桜痴の野望と挫折を描いています。桜痴は今は忘れられてしまっていますが、当時としては抜きん出て多才な人で、長州閥との微妙な関係から狂言回しとなって歌舞伎座設立に突き進みます。しかし、その傲慢さが多くの反感を招き、突出した挙げ句、最後には梯子を外されるという不遇の生き方を続けます。演劇改良を目指した本人の意図とは別に歌舞伎の殿堂である歌舞伎座が出現したことも歴史の面白さです。

第二章では「田村将軍」とも呼ばれ、交渉力・実務能力に興行師としての勘を併せ持った田村成義を、江戸芝居の伝統を守り、劇界の秩序を守ろうとした人間として評価します。

第三章以降は大谷竹次郎がいかにして飛躍して、東西の興行主となったか、そして度重なる焼失にもめげずいかに歌舞伎座再建に情熱を燃やしたかが描かれます。大谷の功績として興行の近代化があげられるとともに経営のノウハウとして映画への進出など多角経営とリスク分散が指摘されているのも頷けることです。

しかし、これが現在定着化している松竹の興行形態ー1ヶ月25日間興行、昼夜二部制でもある訳です。松竹はこの興行形態に固執していますが、役者の負担は大きく、看板役者の死・休演の一つの大きな原因になっているとも考えられます。

第五期歌舞伎座と歌舞伎座タワーの建設により「松竹は退路を断った」、つまり「歌舞伎座を活性化させ、業績を上げなければ松竹の未来はない。歌舞伎座を捨てて松竹が生き残る道はない」との著者の指摘は重要です。歌舞伎座新開場柿葺落公演は現時点では空前の大入りを記録しているようですが、その後が問題です。来年三月に予定されている福助の七代目歌右衛門がどこまでその好調さを維持できるか、当面の大きな課題でしょう。

歌舞伎の将来を考えるためにも歌舞伎座の歴史を振り返る本書は、地味ですが多くの歌舞伎ファンに読まれるべき本であると思います。

【2013. 11. 03 (日)】 author : 六条亭
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諸田玲子『来春まで お鳥見女房』(新潮社)を読む


諸田玲子の人気シリーズ『お鳥見女房』の最新刊です。巻を重ねて本作品で第七巻目です。平岩弓枝の『御宿かわせみ』にも勝るとも劣らない人情時代劇になっています。主人公が女主人であることも共通しています。

ただ、かわせみが捕物帖の色彩を色濃く残していることに対して、お鳥見女房はどちらかと言えばお鳥見の家である矢島家をめぐる人々の人情の触れ合いが中心となっています。

女主人である珠世はそのえくぼが誰をも惹き付ける世話好きで、頼りにされる存在です。「来る者は拒まず」、登場人物の言葉を借りれば「珠世どののおそばにいると、誰もが身内のように思えてくる」のです。そんな珠世を慕い、頼っていろいろな人が相談に来ますが、珠世は相手の立場に立って鮮やかに捌いて行きます。

本作品では長男夫婦に初子が生まれ、次男夫婦も流産という試練を経て縁戚の子供を養子にする過程が描かれ、結末では夫伴之助が家督を長男に譲り隠居するので、その労いの宴が多数の人々が集って開かれる。「それにしても、いつのまにやら……矢島家にこれほどややこが集うことになろうとは、思いもしませんでしたよ」、従姉で矢島家の居候である登美の述懐です。

長男がお役目で行方不明になるような大きな事件はありません。しかし、やや謎めいていたシャボン玉売りの藤助の姿が明らかになるなど、珠世の人柄と多彩な登場人物が織り成す連作短編、そのほのぼとした心地よい読後感は得難いものです。
【2013. 09. 29 (日)】 author : 六条亭
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中川右介『歌舞伎 家と血と藝』(講談社現代新書)を読む


『十一代目團十郎と六代目右歌衛門』『歌舞伎座誕生』など歌舞伎に関する歴史を書いてきた中川右介氏の最新刊です。本書も氏のクラシック音楽関係の著作と同様に、多くの文献資料を縦横に駆使して、「明治以降の歌舞伎の家系と血統と藝がどのように継承されていったかを描く」労作です。 新書版ですが、総ページ数で450ページものヴォリュームがあります。 四月に新装開場した第五期歌舞伎座にあわせての刊行を目指したようですが、昨年十二月の勘三郎、そして二月の團十郎逝去のショックで、「それぞれ数日間何も書く気がしなくなってしまったのだ」とあとがきにありますが、同様に「この本を書くという仕事があったからこそ、そのショックから立ち直れたとも言える」ともあります。

そのような歌舞伎を愛する著者が複雑な歌舞伎の家系の歴史を書くにあたってとった基本的スタンスは、第五期歌舞伎座新装開場の柿葺落興行当初の三ヶ月において主役を務めた役者が属する七つの家に絞ったことです。これは現代の観客にとって実際に自分の目で観ている役者の家系のことが書いてある訳ですから、大変親しみを感じながら本書を繙くことができます。

そして本書は「この七家の家と血と藝の継承を描くが、全体としては、明治期以降現在までの歌舞伎座の座頭をめぐる権力闘争の歴史でもある」と著者は言います。権力闘争と言うと引いてしまう読者もいるかもしれません。しかし、どこの世界、組織でもトップを目指そうという野心があるのが人間の常です。ですから、歌舞伎役者も「歌舞伎座で主役を演じること」を求める闘争があるのは至極当然のことです。ましてや、世襲制度に支えられた門閥主義が色濃く残る世界です。七家の寡占体制は複雑な姻戚関係にも裏打ちされて揺るぐことはありません。

しかし、明治期以降、とくに歌舞伎座誕生以降の役者の家も栄枯盛衰・有為転変があり、その歴史を七家について列伝体形式で書かれた本書はかってない出色の歌舞伎、さらに言えば歌舞伎座の歴史になっています。ただし、「藝」そのものの解説は本書では行われていないことに注意する必要があります。

全体は四部に分かれ、「第四部 新たな希望」と題して歌舞伎役者の現在と今後の展望にも簡単に触れられていますが、本書の核心は第一部から第三部までの各家ごとの歴史です。通して読むことが前提でしょうが、各家ごとについて二話または三話があてられていますので、各家ごとに通して読むこと可能なように配慮されています。役者の家系は実子・養子、結婚・再婚、そして襲名によって次々と名前が変わって行くので、複雑きわまりないのですが、そこは家系図や主な登場人物となる役者のプロフィールも挿入されていて、読者の理解を助けます。ただし、 文献資料では例えば養子となっていても実子の噂があったり、実の親が不詳である場合があります。その点も著者は不明な点はハッキリと分からないと書いています。

私は本書を読んで日本古代の天皇家の争い、藤原一族や平家が天皇の外戚を通して政治の実権を握って行く王朝の歴史を思い起こしました。そして主に藝談などを基に書かれていると思われるいろいろなエピソードは大変人間臭く、ドラマチックで読み飽きることはありません。今の歌舞伎に関心のある方にはぜひ一度読んでいただきたい本です。

なお、目次に基づいて本書の構成を本記事の末尾に七家に分けて表形式で作成してみました。縦軸が七家、横軸が第一部から第三部です。カッコ内が家ごとの話の通し番号です。これにより本書の緻密な構成が明らかになると思います。ただし、私のブログ作成技術の拙さから記事本文から相当の空白ができてしまったことをお詫びします。

また、第五話はフランス系アメリカ人の子として際立った美男子であった十五代目市村羽左衛門が、また第二十話は「中村勘三郎の死」として十八代目勘三郎が例外的に取り上げられています。これは両名跡とも現時点では残念なことに名乗る役者がいなくなってしまいましたが、江戸三座の座元という由緒ある名前として、さらには十八代目勘三郎への鎮魂歌として書かれているものと思います。


























































第一部 第二部 第三部
明治から大正 大正から昭和戦前 昭和戦後から平成
市川團十郎家
第一話(その一) 第十一話(その二) 第十三話(その三)
尾上菊五郎家
第二話(その一) 第七話(その二) 第十五話(その三)
中村歌右衛門家
第三話(その一) 第六話(その二) 第十四話(その三)
片岡仁左衛門家
第四話(その一) 第十二話(その二)
第十八話(その三)
中村吉右衛門家
第八話(その一) 第十七話(その二)
松本幸四郎家
第九話(その一) 第十六話(その二)
守田勘彌・坂東三津五郎家 第十話(その一) 第十九話(その二)


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【2013. 08. 21 (水)】 author : 六条亭
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福井晴敏の最新作は初の経済サスペンス超大作『人類資金』(講談社)
福井晴敏が私のお気に入りの作家の一人であることは、拙本HP「六条亭雑記」の読書手帖で『川の深さは』、『亡国のイージス』、『終戦のローレライ』そして『Op.ローズダスト』の主要四作品を取り上げて、読書レビューを書いていることでもお分かりいただけると思います。しかし、『Op.ローズダスト』を2006年に刊行後新作を準備中とのことで 、新しい作品、とくに長編小説を読むことができませんでした。

ところが、ようやく待ちに待った最新長編小説の刊行がはじまります!それも文庫書き下ろしで全7巻の構想、10月に映画化されて公開、電子書籍版も同時配信という画期的なプロジェクトです。

超弩級作家・福井晴敏 最新刊 『人類資金』刊行!電子書籍版100ページ先行無料公開!

『人類資金』は戦後史を語る際に必ずと言ってよいほど登場する謎の「M資金」を主題にして構想された作品のようです。 映画『亡国のイージス』で、原作者福井晴敏と阪本順治監督という二つの才能が出会ったことに端を発し、阪本監督が長年温めていたテーマ「M資金」を題材に再びタッグを組むことを福井晴敏に提案したと言います。

戦後史の闇にいかに迫りうるか?興味は尽きないとともに、作者の初のエコノミック・サスペンス小説です。これまた異例なことに書き下ろしの文庫の第1巻が通常相場の半額の設定、そしてお試し版の常識を越える大容量の電子書籍版の配信もすでにはじまっています。早速ダウンロードしました。7年ぶりの最新作を先行して楽しみたいと思います。




【2013. 08. 06 (火)】 author : 六条亭
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宮部みゆき『泣き童子 三島屋変調百物語参之続』(文藝春秋) を読む


『おそろし』『あんじゅう』に続く宮部みゆきの三島屋変調百物語の第三巻目です。許婚の事件で心に傷をおった「おちか」が川崎の実家を出て叔父夫婦の営む袋物屋に身を寄せ、叔父の計らいで来客用の座敷「黒白の間」で来客から不思議な話を聞いて魂が繕われるようになり、変わり百物語がはじまりました。語って語り捨て、聞いて聞き捨てが唯一の約束事です。おちかの相手を包み込むような応対が相手の緊張を和ませ、今回も不思議な話が語られます。

今回は全部で六編収録されていて、そのうち「小雪舞う日の怪談語り」は珍しくおちかが晴れ着をきて、怪談を語る会に出かけて行き、三人の男女の語りを聞きます。その他の五編はともにいつもと同じ設定ですが、人間の持つやさしさと怖さをあぶり出す手際は相変わらず練達の筆の冴えです。しかも、前二巻と若干肌合いが異なり、本巻は人間の心の闇を深く抉りだしていて、読み終えて慄然とする作品も多いと思います。しかし、そこは宮部みゆき、最後はホロッとさせてもくれます。

このシリーズ、文字通り百物語に到達するまで続いて欲しいものです。

『おそろし』の読書レビューは、こちら。

『あんじゅう』の読書レビューは、 こちら。
【2013. 07. 26 (金)】 author : 六条亭
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今野敏『宰領ー隠蔽捜査5』(新潮社)を読む


今野敏の人気警察小説シリーズ『隠蔽捜査』の最新刊です。異色のキャリア警察官僚竜崎伸也を主人公にしての第6巻目です。基本的に長編ですが、3.5と銘打った短編集『初陣』が一冊ありますので、数え方にもよるでしょうが、5とあっても6巻目と考えました。

警察庁から降格人事で大森警察署長となっている竜崎が今回手掛けるのは管内で発生した要人誘拐と殺人事件です。しかも犯人が神奈川県警が管轄する横須賀に潜伏していると考えられることから、幼馴染みで同期の警視庁刑事部長である伊丹俊太郎から前線本部の指揮を依頼されます。ご承知のように警視庁は格が高いとはいえ、神奈川県警とは別組織です。したがって、竜崎が前線本部に行って求められることは警視庁との調整です。つまり同一事件を追いながら、縄張り争いが発生せざるを得ない状況をどうやって竜崎が宰領し、事件解決に導くのかが本書の面白さです。

上に媚びへつらわず、徹底して自己の信念を貫き通す竜崎はキャリアの中にあっては変わり者と見られてもやむを得ないでしょう。しかも、現場主義を実践しています。今回一時は神奈川県警の現場ですら対立しかかるのですが、竜崎の的確な読みが事件解決のヒントとなり、最後は身体をはって現場の判断を優先して一挙に解決にまで持ち込みます。事件解決後もう一捻りあるのですが、その辺はやや食い足りない点も残りました。

しかし、やや理想的過ぎる気もしますが、このような上司がいたら、現場は働きやすいと思います。今回は子息の大学受験も絡み、竜崎の長い二日間がハイテンポで展開していて最後まで飽きさせませんでした。

【2013. 07. 01 (月)】 author : 六条亭
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