徒然なる日々の条々を、六条亭が日記風に綴ります。本屋「六条亭雑記」もよろしく。
 
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『沼津』『荒川の佐吉』−秀山祭九月大歌舞伎通し観劇雑感(その一)
新橋演舞場が東京での歌舞伎公演の本拠地となってはじめての公演となる秀山祭九月大歌舞伎。演目と配役の発表時から感じていたとおり、今回は演目の並べ方が昼夜でアンバランスである。四日観劇時はまだ初日から三日目ということもあろうが、昼の部は10分程度押して、入れ替え時間がきわめて短く、観客がまだ十分席についていないうちに夜の部(4時45分開演)の幕が開くという慌ただしさである。観客に不親切と言われても止むを得ないであろう。

しかも、昼の部は二時間前後の上演時間である『沼津』と『荒川の佐吉』の二つの重い演目が並び、その後に15分程度の舞踊『寿梅鉢萬歳』がくるとあっては、観る方の腹も膨れるというものである。おそらく人間国宝の御三人の演目を舞踊で調整して、昼夜に按配した結果このようになったのだと推測するけれども、チケットの売れ行きも三階席の少ない新橋演舞場にして、珍しくも平日夜の部はまだ三階席ですら売れ残っている状況である。秀山祭の主催者である吉右衛門の意図にそった演目が揃っていたかどうかははなはだ疑問である。

昼の部『沼津』では、狂言半ばの口上で歌六、歌昇の二人が吉右衛門と同じ播磨屋に復することが披露された。芝雀も含めて四人での口上は大変アットホームな雰囲気を感じた。吉右衛門の十兵衛、歌六の平作はともに手に入った役。吉右衛門は膝をかばっているような座り方が気になったが、台詞の一つ一つに情がこもる。また、歌六がこういう老け役を丁寧に演じていることに好感を持てた。芝雀のお米も愛する男のために印籠を手に入れようとする必死の気持ちがよく出ている。

幕開きの沼津棒鼻の場では歌江が桂三とともに妊婦の旅人夫婦、吉之丞が茶店の女房といかにもそれらしい雰囲気が出ていたのはさすがである。

『荒川の佐吉』は仁左衛門の当り役の一つ。人のよいやくざ者が親分の娘が産んだ盲目の子供を育てるという真山青果の作品だが、今回は卯之吉が千之助で、達者な子役ぶりで泣かせたから、さらに仁左衛門の佐吉が引き立った。相模屋政五郎で吉右衛門が付き合っているのも大きい。いかにも情理を弁えた大立者の親分の風格があり、佐吉が心服するのも自然に見える。前回に引き続き染五郎の大工辰五郎が適役。左團次役が何の告知もないうちに歌六に変わっいたが、ここでも歌六は凄みのある悪役に徹していた。

『月宴紅葉繍』は本来ならば季節に相応しい踊りであるが、この酷暑では秋らしさを感じられないのは梅玉・魁春には気の毒であった。『寿梅鉢萬歳』は初春の萬歳であるから、逆に季節外れ。藤十郎の踊りは以前より固く、小さくまとめているように感じられたのは、驚異的な若さを誇るこの役者にしても年齢ゆえか。

【2010. 09. 06 (月)】 author : 六条亭
| 歌舞伎 | comments(6) | trackbacks(1) |
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この記事に関するコメント
初日の夜の部に行きましたが、入口近くに左團次さんが体調不良のため9月興行を休演とのお知らせがありました。暑さで体調を崩されたのでしょうか・・・
| ユキ | 2010/09/07 11:54 PM |
> ユキ さま

左團次さんの休演のお知らせが出ていましたか!新橋演舞場はロビーが狭いので、観客の方々がすれ違うのでやっとでして、貼り紙を見落としたようです。

お知らせありがとうございました。

左團次さんも体調に大事無ければよいですが。
| 六条亭 | 2010/09/08 9:47 AM |
今日昼の部を見て参りました。
魁春さん、梅玉さんの舞踊は宮廷の雅やかな雰囲気が3階席まで漂ってきました。

『沼津』は初めてみました。吉右衛門さんいたについていて良いですね。それに今回のああいう老け役の歌六さんの演技とても好きです。鬼平の大川の隠居の船頭の役とか。歌六さん以外には想像できません。『荒川の佐吉』での渋い浪人役もいけますね。

『荒川の佐吉』は前回歌舞伎座以来2回目でしたが、今回は佐吉の気持ちが痛いほど理解でき泣きました。でも政五郎の一言「卯之吉は人の子、犬、猫ではない。自分で育てたからずっとそばに置いておきたいというのとは違う」これも第3者からのとても説得力のある意見で、分別ある佐吉が決心をかえるのもわかります。

藤十郎さんは相変わらず若々しいでした。

千穐楽に今度は1階で再見するので楽しみです。
| Clementine | 2010/09/12 9:48 PM |
>  Clementine さま

昼の部のご感想、ありがとうございます。

『沼津』は悲劇なのですが、登場人物がともに相手を思いやる情に溢れていて、心うたれますね。吉右衛門さんは手に入った役ですが、歌六さんがこのような老役に進境著しいですね。『荒川の佐吉』でも代役を好演していました。

その『荒川の佐吉』ですが、私も今回の方が泣かされました。佐吉の気持ちもよく分かるとともに、吉右衛門さんの政五郎が説得力がありました。

藤十郎さんは本当に若々しいですね。
| 六条亭 | 2010/09/12 10:22 PM |
10月に入ってしまいましたが、新橋演舞場での秀山祭九月大歌舞伎について書いておこうとアップ開始です。昼の部は12日、夜の部は千穐楽の26日に観ました。
人間国宝の芝翫・富十郎・藤十郎の3人の演目を入れるため、昼も夜も4本立てでそれぞれ長丁場となり、観る方にとってはちょっと辛かったと思います。私もこの間の近況報告のようにヘロヘロで、観劇も演目を飛ばしながらという体たらくでした。
今回は歌六・歌昇兄弟の播磨屋復帰で劇中の口上もありましたが、昼夜通じて大向こうから「播磨屋」と声がかかる役者が増えたことで、これこそ秀山を偲ぶ興業としてふさわしいと実感しました。
吉右衛門と仁左衛門の共演で贅沢で濃厚な芝居を堪能させてもらい、なんだかんだと見応えがあったので5月以来買っていない筋書を千穐楽に買おうとしたら、なんと売り切れ!このあたり、見極めがけっこう難しいですねぇ。
| ぴかちゅう | 2010/10/04 11:12 PM |
> ぴかちゅう さま

私の方は先月半ばの南座日帰り遠征後から公私ともに諸事慌しく、観劇感想がさらに溜まってしまっています(^ ^;。ですので、秀山祭も夜の部が未アップです。

今回は新播磨屋ファミリーのお披露目もあり、華やかで見応えがありましたね。ただ、演目としては内容的にも昼夜で比重が異なっていて、再考を要しますね。

昼の部のみですが、TBをうちました。
| 六条亭 | 2010/10/05 10:45 PM |
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10/09/26 秀山祭九月大歌舞伎(1)全体概観と舞踊の感想
{/pen/} 10月に入ってしまったが、新橋演舞場での秀山祭九月大歌舞伎について書いておきたい。昼の部は12日、夜の部は千穐楽の26日に観劇。 まずは全体の感想から。 これまでの秀山祭との大きな違いは、初代吉右衛門所縁の播磨屋・高麗屋・萬屋中心の座組みだったこれま
| ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記 | 2010/10/05 11:10 PM |
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