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評価:
宮部 みゆき
講談社
¥ 1,890
(2011-09-22)
Amazonランキング:
61314位
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宮部みゆきの最新時代小説はぼんくら同心井筒平四郎と細君の家の甥で超美形の弓之助たちが活躍する「ぼんくら」シリーズの第三作目にあたる。『ぼんくら』『日暮らし』(いずれも講談社文庫)は登場人物と謎が連続していたので、二作を続けて読まないと必ずしも面白さが十全に味わえるとはいかなかったが、今回の『おまえさん』は独立して読め、主人公たちは魅力的なキャラクターがますます全開の趣きがあることに加えて、登場人物たちの人間模様と人情の機微が色濃い。
長編と短編を組み合わせて長編をなしている形式は踏襲されているが、生薬屋瓶屋をめぐる事件は下巻の冒頭で弓之助の謎解きが明快に行われている。だから、後半はその犯人たちの追跡とともに瓶屋の後妻の佐多枝や「おでこ」こと三太郎(人間テープレコーダー)を捨てた母親のおきえ、さらには十徳長屋の面倒見の良い丸助、井筒平四郎とともに事件解決に奔走する真面目な定町廻り同心間島信之輔、その大叔父上本宮源右衛門などの人間像を描くことに重点が置かれている。彼らは、岡っ引きの政五郎親分やお采屋のお徳も含めた主人公たちと同様、人間が粒だっており、陰影が濃い。その息遣いまでもが聞こえてくるような生々しさがある。しかも、その言葉が心温まり、胸に沁みるものが多い。『ぼんくら』『日暮らし』に比べると、その感を深くする。これぞ小説の醍醐味ともいえよう。読み進めながら、この世界がいつまでも続いて欲しいと思ったほどである。
付け加えれば、今回はじめて弓之助の三番目の兄、ちゃらんぽらんと言われる淳三郎が登場する。この調子がよく、女にモテる遊び人が実は弓之助とはまったく正反対ながら頭がよく、人に好かれる魅力的なキャラクターになっていて楽しい。続編での再登場を切望したい。
本作品は刊行が遅れたということでハードカバーと文庫本同時刊行という作者の嬉しい配慮があるが、ハードカバーのみに挿入された『ぼんくら』『日暮らし』『おまえさん』の登場人物相関図は宮部みゆきファンにはたまらない貴重なものであろう。村上豊のデフォルメされたカバー装画は相変わらず何回見ても飽きない