昨日は二度目の、そしてとうとう千穐楽となってしまった坂東玉三郎の初春歌舞伎を観劇してきました。
『口上』
六日の観劇時とはとくに大きく変わったところはなく、次のようなものでした。この劇場はセゾン劇場の時から縁があり、昨年図らずも歌舞伎公演の機会をいただき、今年も引き続きお話をいただいたことはまことにありがたいことです。昨年に引き続き場内はお正月のこしらえをしてお迎えしています。今年のお正月は六座に歌舞伎公演がかかっているので役者さんが少ない。昨年の阿古屋・女伊達とは違い、今度は一人では出来ないので菊五郎丈の快諾を得て本来なら新橋演舞場に出演している松緑丈と尾上右近丈をお借りして出てもらったこと、また二代目松緑に引き立ててもらい一緒に出演させてもらって、いろいろ教えを受けたこと、その時まだ幼かった嵐君(当代松緑の本名)とこのようにして『妹背山婦女庭訓』で共演することになるとは歳月の経過は早いものと感じます。昨年は社会的も大変なことがあり、さらに大先輩のお二人の役者さんが亡くなりました。指導してくれる方がいなくなり、自分自身でやっていかなくてなりません。早いもので来年の春は新しい歌舞伎座が開場します。私もそれに向けてなお一層精進します、等々の内容でした。
『妹背山婦女庭訓』
前半の『道行恋苧環』は、求女(実は藤原淡海公)をめぐってのお三輪、橘姫のいわば三角関係の踊りです。三人とも綺麗で見た目のバランスはいいのですが、今ひとつ盛り上がりません。踊りのフリ自体が淡白なこともあるのでしょうが、笑三郎丈と尾上右近丈の踊りにもう少しキレと色気が欲しいところです。
『三笠山御殿』
玉三郎丈のお三輪がとにかく恋に一途で純情可憐な田舎娘になっていて年齢を感じさせないのは驚きです。さらに官女にいじめで哀れさが一層増します。その前半があるので花道での擬着の相(激しい嫉妬)への変化が鮮やかです。そして鱶七に刺されて自分の生血が恋する求女の役に立つことを知り喜びながら死んでゆく落ち入りはさらに哀切極まりない場面です。
松緑丈初役の鱶七、前半は粗削りながらこの役の大きさが十分出ており、時に難のある台詞回しも声をよく張っていてよい出来だったと思います。六日に観劇時よりも演技に余裕すら感じさせました。
千穐楽は松緑丈を立てる意味もあったのでしょう、一回のみですが玉三郎丈と松緑丈の驚きのカーテンコールがありました。