この年齢になると外国の小説は、主人公のカタカナの名前が覚え難くなり、どうしても敬遠しがちになるが、この英国の女流作家ジェーン・オースティンの作品は別格である。と言っても、1775年に生まれて、その生涯の殆どを田園地帯のハンプシャーで過ごして、42歳で世を去ったオースティンは僅か6篇の完成された作品しか残していない。
その作品の文庫が最近続けて刊行されて、多くの人が気軽にその魅力を知ることが出来るようになったのは嬉しいことである。
・『エマ』【上下】(ちくま文庫、この文庫には他に『高慢と偏見』もある)
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『マンスフィールド・パーク』(中公文庫)
高校生の時、阿部知二訳『高慢と偏見』(最近は『自負と偏見』の訳名が相応しいように思ってきたが、ここは一般的なものを使う)を読んで、言ってみれば英国の田舎の家庭生活を舞台に結婚話を扱っているだけなのに、その機知に富んだ面白さに驚き、このような作家の作品はすべて読みたいと熱望するようになった。ところが、当時はまだ邦訳されていないか、されていても絶版で入手できずにいた。しかし幸いにその後同じ阿部知二訳で『エマ』、そしてしみじみとした味のある最後の作品『説き伏せられて(説得)』が数年後に刊行されて、その渇きを癒すことが出来た。それでも大作『マンスフィールド・パーク』がようやく本邦初訳されて読めたのは、さらにその後10年くらい経ってからだったように記憶している。そして全作品の邦訳が読めるようになったのは、映画化にともなって最近のことである。
ジェーン・オースティンについては、本HPでリンクしていただいている「信兵衛の読書手帖」で信兵衛さんが熱っぽく
お薦めページを書いており、これを読めば一目瞭然でオースティンの全貌が分かるので、詳細はそちらに譲りたい。ただ、そのどの作品を読んでもその面白さは変わりないが、それぞれ主人公に性格により微妙な違いがあり、それがまた作品の深みを増していることを強調しておきたい。
S・モームが『世界の十大小説』のなかで、スタンダール、トルストイ、ドストエフスキーなどの文豪の作品と並んで、『高慢と偏見』をあげているのは有名なことであるが、実は彼女の代表作を一つあげるとなると、大変迷うのが事実である。私も読むたびにその作品が代表作と思ってしまうほどである。やはり『高慢と偏見』と後期の三つの作品−『マンスフィールド・パーク』『エマ』『説き伏せられて(説得)』はすべてお薦めである。最新の訳はなかなかこなれていて読み易くなっているので、どれから読んでもその面白さに魅了されることであろう。
この機会にその他の作品−とくに『説き伏せられて(説得)』の文庫化も早期に望みたい。