1983年ザルツブルク音楽祭のライヴ映像が、DVD(
TDKコア TDBA−0124)で発売された。ライナーノーツによると、ミヒャエル・ハンペ演出、ムーティ&ウィーン・フィルによるこのプロダクションは82年以来大評判になり、4年連続で上演され、さらに数年後にまた再演されたものという。同じTDKコアから既に発売済みの
レヴァインの『魔笛』(TDBA−0094)も大好評で同時期に続けて上演されていたものだから、モーツアルトのオペラはザルツブルグ音楽祭では定番のレパートリーとはいえ、ベームとカラヤンの並立時代に比べてカラヤン帝王時代のオペラは一層充実したものだったと言えよう。カラヤン自らも、『ドン・カルロ』『アイーダ』『ドン・ジョヴァンニ』『ばらの騎士』など晩年の大作を送り出していた。
当時遅咲きながらようやくオペラの魅力に目覚めて、LPレコードのみならず、FMのオペラ放送を苦労しながらせっせとエア・チェックした頃である。レコーダーは当初カセットデッキのみだったから、長時間もののオペラは片面最大45分ではほとんど入りきらない。そこで、FM雑誌と首っ引きで録音計画を立てて、FMチューナーとデッキにかじりついて録音したものである。拍手の合間を狙って、カセットを裏返す時は冷や汗物だったが、うまく成功した時の快感は言うに言われぬものだった。
話が余談になったが、この『コジ・ファン・トゥッティ』は、そのなかでもとくにムーティ指揮ウィーン・フィルの組み合わせによるこの演奏が、きりりと引き締まったなかにも溌溂かつ清新であり、それでいてモーツアルト特有の繊細で優美な美しさを併せ持った大変素晴らしいものだったから、完全に魅了されて、何度も繰返し聴いた記憶がある。まさかこの演奏を映像で観ることが出来るとは思いがけなかった。
今回の映像は83年の収録で、一部にマスター・テープに起因する映像のゆれや音の歪みがあるが、DVD鑑賞にはまったく差し支えない。かえって、この年代の録画としては高い水準にあると思う。ハンペによる演出は、背景にナポリ湾を配し、このオペラの一つの特徴である左右対称に徹した、南国的な明るさと優雅さに彩られた装置を巧みに生かしていてオペラを観る楽しみも味あわせてくれる。歌手もマ−シャル(S)のフィオルディリージやアライザ(T)のフェルランド、そしてキャスリーン・バトル(S)のデスピーナなど豪華な配役で、演技・歌ともどもモーツアルトのこのオペラの魅力を満喫できる。
もちろん、ガーディナー指揮などによるのオリジナル楽器による鮮鋭な演奏を聴いてしまった耳には、当時ほどの新鮮な驚きはないものの、生身の人間臭い喜劇を味わうには今もって絶好の演奏であり、それを映像付きで鑑賞できるのは嬉しいことである。180分のDVDもあっという間に視聴し終わってしまった。