昨日昼夜通し観劇した花形歌舞伎について、出演した若手を中心にした役者について、簡単にまとめてみたい(順不同)。
まず主役の三人から。
○ 松緑
青山播磨は、まことの恋を疑われた男の意地がよく出ていた。武智光秀は、この舞台を一人で演じ切るにはまださすがに重い感じを受けたが、幕が閉まった後も続く高笑いが印象的。南郷力丸は一番のっていて、本人も楽しそうに演じていた。
○ 菊之助
まったく異なった役柄を四役(船弁慶を二役として)を演じたためか、楽日では低い声を傷めていたようで少々気の毒だった。しかし、富樫は最初に観た時より、かなり力強く、また情のある役作りになっていた。弁天小僧は、やはり楚々とした旗本のお嬢さまが見顕されて、男に戻った時の不良少年の対比が鮮やかで、これは当り役。船弁慶の静御前は、まだ深みに欠けるが、その分知盛の霊の荒々しさがよい。
○ 海老蔵
『勧進帳』では、目の威力が際立つとともに躍動感溢れる弁慶を見せてくれた。今の海老蔵ならではのものであろう。『馬盥』の春永は、光秀をいじめる時のいやらしさと憎々しげなところが面白い。『四の切』は、佐藤忠信は堂々たるもの。狐忠信は、まだ狐言葉の高音に不自然さは残るものの、それを補ってあまりある親狐である初音の鼓に対する情の熱さ・深さを全身で表現した熱演だった。観客もそれに反応して、手拍子でこたえ、宙乗りも心なしかより激しい動きの中に、盛大に桜吹雪が舞って宙乗り小屋に入っていった。
その他の若手
○ 松也
昼夜にわたって四役で活躍。『番町皿屋敷』の腰元お仙、『馬盥』の桔梗の美しさが目を引いた。
○ 梅枝
若手に似合わない品のよい口跡であるが、『船弁慶』の義経の気品は出色である。弁天小僧の浜松屋の倅宗之助もおっとりとした良い味。
○ 笑三郎
『四の切』の静御前は気品のみなならず、狐忠信を思いやる情に溢れていた。
○ 春猿
『馬盥』の園生の局は、この人のニンではないが、精一杯頑張っていた。
○ 段治郎
『四の切』の義経が、この役を極めたような大きさがあった。また『勧進帳』の四天王も手堅い。
○ 猿弥
『番町皿屋敷』の放駒は侠客らしいどっしりとした貫禄、段治郎と同じく『勧進帳』の四天王も手堅いが、やはり『四の切』の赤面の亀井六郎が、主役を引き立てる安定感があった。
○ 薪車
いろいろな役を与えられても、過不足なく確実に演じている。
ヴェテラン
○ 團蔵
弁天小僧の浜松屋の場に登場する鳶頭清次の粋は、この人ならではのもの。『船弁慶』の弁慶は貫禄で、知盛の霊を圧倒する。
○ 芝雀
『番町皿屋敷』のお菊は、青山播磨を愛を信じきれずに重宝の皿を割って試そうとする女心の哀れさがよく出ていた。『勧進帳』の義経の、愁いを帯びた品格はさすがである。
○ 市蔵
今月は『勧進帳』の四天王の一人常陸坊海尊一役とはもったいなかった。
○ 亀蔵
昼夜に三役。出番は少ないが、コミカルな役も含めて確実に脇を固めていた。