先日来ベルリン・フィルの野外コンサート−ヴァルトビューネにはまっているが、昨年BS2で放送されたネーメ・ヤルヴィ指揮の2006年のコンサートがユーロアーツの輸入盤でDVDで発売済みであるのを見付け、早速購入して視聴した。題して『オリエンタル・ナイト』(もっとも映像では、「Thousand and One Nights」となっているから、「千夜一夜」である)。
ヴァルトビューネ2006 ネーメ・ヤルヴィ指揮ベルリン・フィル『オリエンタル・ナイト』
曲目も凝っていて、リムスキー=コルサコフの交響組曲『シェエラザード』とグリーグの『ペール・ギュント』組曲を中心に構成してあり、異国情緒満点であるうえ、めったに聴けない珍曲もある。加えて、
美しきヴァイオリン界の新鋭ジャニーヌ・ヤンセンが登場して、華麗なる演奏も聴かせる。
指揮者ネーメ・ヤルヴィは北欧やロシア音楽のスペシャリストであるから、これほどうってつけの人もいない。白のタキシードを着て颯爽と登場したヤルヴィの指揮ぶりはお世辞にもかっこいいものではないが、その音楽は大変がっちりとしていながら、少しも固いところが無い豊潤なもので、まさに職人芸的。安心して楽しめる。
『オリエンタル・ナイト』になぜグリーグの『ペール・ギュント』が出てくるのかと言えば、主人公のペール・ギュントがアラビアを放浪する部分があるのであるから、少しもおかしくない。しかも、有名な「ソルヴェーグの歌」を歌うマリタ・ソルベルク(S)が、非常に透明で澄んだ歌声を聴かせてくれるから、「アニトラの踊り」「アラビア人の踊り」をあわせて、グリーグを得意とするヤルヴィの面目躍如のすぐれた音楽となっている。
メインの交響組曲『シェエラザード』は、前半と後半の二部に別れて演奏される珍しい構成であるが、次第に暮れて行くヴァルトビューネの森のなかで、大勢の観客がふる明かりを背景にしての音楽は幻想的ですらある。ジャニーヌ・ヤンセンはマスネ『タイスの瞑想曲』とサン=サーンス『序奏とロンド=カプリチオーソ』を弾いたが、後者が鮮やかなテクニックで弾き切って、熱い演奏であった。それにしても、先ほどのソルベルクといい、このヤンセンといい、美形そろいで目も楽しませてくれる。例年のように寝転んで聴いたり、恋人と睦まじく楽しそうにしている観客の映像などが挿入されて、この野外音楽会が6月のベルリンの恒例となっており、いかに市民たちに愛されているかが分かる。
アンコールもフチーク『フロレンチーヌ行進曲』、ニールセン『黒人の踊り』、そしてお決まりのリンケ『ベルリンの風』で、この演奏会は大いに盛り上がって終わる。なお、上記のリンクでは曲目がすべて網羅されていないので、参考までに全曲を以下に掲げる。
【曲目】
(1)モーツァルト『後宮からの誘拐』序曲
(2)ニールセン『アラディン』
(3)リムスキー=コルサコフの交響組曲『シェエラザード』
第1楽章 「海とシンドバットの船」
(4)同 第2楽章 「カレンダー王子の物語」
(5)グリーグ『ペール・ギュント』組曲より
「アニトラの踊り」
(6)同 「ソルヴェーグの歌」(マリタ・ソルベルク(S))
(7)同 「アラビア人の踊り」(インゲビョルク・コスモ(Ms))
(8)マスネ『タイスの瞑想曲』(ヴァイオリン:ジャニーヌ・ヤンセン)
(9)サン=サーンス『序奏とロンド=カプリチオーソ』』(ヴァイオリン:ジャニーヌ・ヤンセン)
(10)リムスキー=コルサコフの交響組曲『シェエラザード』
第3楽章 「若い王子と王女」
(11)同 第4楽章 「バグダッドの祭り。海。船は青銅の騎士のある岩で難破。終曲」
(アンコール)
(12)フチーク『フロレンチーヌ行進曲』
(13)ニールセン『黒人の踊り』
(14)リンケ『ベルリンの風』