風邪がまだ完治しないままの観劇のため、簡単な感想です。
『三人吉三巴白浪』
初日観劇に比べると愛之助のお坊が格段に充実していた。容姿は元々ニンにあっているうえ台詞に力強さが加わり、盗賊に落ちぶれた侍の悲哀が濃厚に漂っていた。だから、菊之助のお嬢との「吉祥院の場」が前半は妖しい雰囲気も出てきていた。因果噺もよりくっきりと鮮明に悲劇的な色調を帯びており、大詰の「本郷火の見櫓」の場が視覚的にもとても美しい。
菊之助のお嬢は台詞も明晰で、女装した盗賊という倒錯した性の魅力も横溢しているが、演じ方としては不良少年のイメージであろう。ところどころで(当然のことであろうが)菊五郎そっくりの表情・型が多いことを再認識した。昼の部の三五郎のような役も考え合わせると、菊之助も女形から徐々に立役に重点を移して行くのであろうか?
松緑の和尚は前半が熱演のあまりかやや自分流の台詞回しになっているのが気になったが、後半は双子の兄妹を二人の身替りに殺すまでの苦悩をよく現していた。松也・梅枝の双子の兄妹はけなげで、因果の悲劇がさらに陰影をましていた。
菊之助、愛之助、松緑の三人吉三はこれからも三人の持ち役として何回も演じられることであろうが、今回の花形歌舞伎はエポックメイキングであると言える。
なお、「本郷火の見櫓」での清元と竹本の掛け合いのなかで、竹本のシンを務めた葵太夫はご子息が清元瓢(ひさご)太夫となって24日、25日が初御目見得で親子共演とのことであった。三挺四枚の清元の一番下手に座っていた太夫が葵太夫を一回り小さくしたような青年で、ご子息であったように見受けられた。延寿太夫ほかの太夫と声もよくあって艶やかで、とても初御目見得とは思えない出来だった。単独での語りもあり、その後を葵太夫が語るという文字通りの親子共演を拝見できた。
『鬼揃紅葉狩』
これは初日もダイナミックな踊りに魅惑されたが、楽日はさらに侍女の鬼女たちの息もよく合い、三階席から観ていても一糸乱れぬ所作と毛振りは見事。亀治郎は前半の更科の前のたおやかな上臈の踊りから一転して鬼女の口跡はまさに猿之助そのものである。鬼女はリーダー(?)としてぐいぐい引っ張ってゆく迫力は凄まじいものがある。松緑の端正で優雅な平維茂、菊之助の清新な八百媛など見どころが一杯である。侍女たちも吉弥を別格とするとこれからの歌舞伎を担う御曹司たちがひたむきに演じていたには好感を持てた。とりわけ普段立役が多い巳之助の女形が美しく、目をひいた。