11日に観劇した橋之助が主役の石川五右衛門である
通し狂言『金門五山桐』、感想が思うようにまとまらないまま日にちが経過してしまった。それで思いつくままの雑感を箇条書きにすることでご容赦いただきたい。
(1)橋之助はこの通し狂言『金門五山桐』の石川五右衛門を演じるのが夢だったという。それは三代目延若、曽祖父の五代目歌右衛門が大事にしていた役であるからという点によっている。今回は通し狂言とは銘打っていても膨大な、上演時間八時間におよぶ原作を大胆にカットして、二時間半に構成している。
(2)時代物役者である橋之助の五右衛門は、立派な押し出しと舞台栄えのする容姿でひときわ大きく見える点で、新しい五右衛門役者の登場と評価してよいだろう。
(3)ただ此村大炊之助、実は真柴久吉の復讐せんがために真柴家に入り込んだ宋蘇卿は五右衛門の父親なのであるが、この二役の演じ分けが必ずしもうまく行っていない。それは大胆にカットした台本が少々ごたついていて、分かりにくい点にも起因するであろう。また世話物の場では、世話になりきれない点が橋之助の今後の課題であろう。
(4)見所のつづら抜けの宙乗り、存分に五右衛門の悪の大きさを出していて、素晴らしい。しかし、その後の逆宙乗り(?)で登場するのは蛇足と思う。南禅寺山門の場は歌舞伎座の吉右衛門に比較されるのはずいぶん損をしているけれども、それなりに絵になっているのはお手柄である。
(5)扇雀の三役はどれも為所がなく、いかにも気の毒。しかも、さらに周囲の役者が彦三郎、亀三郎、亀寿の親子、萬次郎、亀蔵、高麗蔵しかおらず、彼らが頑張っているのはよく分かるが、これではいくらなんでも役者が不足している。亀寿が女形を演じるのだから、女形払底は明らか。歌舞伎座さよなら公演との関係もあろうが、舞台の厚みが足りないのはいかんともしがたいものがあった。