今年もいよいよ明日が大晦日。大掃除やお正月の準備で大忙しの方、または帰省や旅行に出かけた方も多いでしょう。かくいう私も今年は押し迫ってからの忘年会も続き、またお正月の準備の手伝いなどで慌ただしく、七日〜八日に観劇した南座顔見世の感想もまとめ切れないまま今日まで来てしまいました。
そこで以下、簡単な感想とさせていただきます。
京の年中行事當る卯歳 吉例顔見世興行は事前の予想をはるかに越えてヴォリューム感一杯の舞台。終演が午後10時40分というのも東京では考えられない遅さである。地元の方でも帰宅できるのだろうかと心配になる時間である。
『外郎売』
海老蔵の怪我による休演で急遽愛之助が代役を勤めた、ある意味で大変話題になった舞台である。しかも、この『外郎売』は市川宗家以外には松緑が演じたことがあるのみで、まさに市川家の専売特許のような演目である。それを上方歌舞伎出身の愛之助が演じた意味は大きい。
見どころ・聴きどころは外郎売りの口上、早口の言い立てである。この点は愛之助はまことに口跡爽やかに見事にこなしていて、とても初日直前に指名されたとは思えない出来である。天晴れと言いたい。曽我狂言であるから、曽我五郎の正体を現してからの荒々しさも十分である。
共演は澤瀉屋一門の笑三郎、春猿の大磯の虎、化粧坂少将が美しく好一対である。猿弥の小林朝比奈もおおらかな味がある。孝太郎の舞鶴はもう少し柔らかさが欲しい。段四郎の工藤祐経は、この若手の中に入ると一段と大きく見えるのは藝の力か。
『仮名手本忠臣蔵 七段目 祗園一力茶屋の場』
平成19年2月歌舞伎座で通し上演された時と同じく、吉右衛門の大星由良之助、玉三郎の遊女おかる、仁左衛門の寺岡平右衛門と、今望みうる最高の顔合わせ。これが南座顔見世で実現したのは、歌舞伎座閉場の思わぬ余波であろう。今回は九大夫との酒盛りで、見立てもあった。
吉右衛門は、遊蕩ぶりを見せる酔態はまさに春風駘蕩で、本心からの遊びと見える。しかし、仇討の本心を見せる鋭い眼差しは切り替えの早さが見事である。しかも仇討の中心人物としての器量・大きさもこの人ならではのものであろう。
玉三郎の遊女おかるは、若い頃から当たり役にしているものだが、年齢を感じさせない美しさと可愛らしさがあり、絶品。おかるは腰元から勘平の女房、そして遊女と通し狂言のなかでその境遇が激しく変転する女性である。この玉三郎の七段目のおかるを観ていると、その数奇な運命が一身に表現されている。由良之助とのじゃらつき、兄平右衛門との遭遇で、愛しい夫勘平の死を知り、絶望する。また由良之助の仇討の本心に気づいたおかるを討とうとする兄と、それを受け入れる妹という兄妹の愛。私の観劇時は花道傍であったので、花道でのアドリブとも聞こえるようなひとり言の台詞が、いつもながら上手いと感じた。
仁左衛門は忠義一途で、また妹思いの奴。由良之助も演じている仁左衛門が演じると、とりわけ家老の由良之助のためを思って動いていることが手に取るように分かる。また玉三郎との永年のコンビは、この兄妹のやり取りも自然で、息がよく合い、笑い、泣かされた。
ほかに、種之助の力弥が清々しい。歌六、歌昇、種太郎の三人侍も含めて、脇は厚い。当分この七段目を越える舞台を観ることは出来ないであろう。