十日に通し観劇した
新橋演舞場壽 初春大歌舞伎について、演目の順番にこだわらず雑感として簡単にまとめます。
夜の部
『寿式三番叟』は三日に急逝した富十郎が翁として鷹之資の附千歳と共演するおめでたい演目となったはずだった。しかし、もともと万が一を考えていたのであろうか、梅玉が翁を演じて貫禄を見せる。鷹之資がきりりと引き締まった踊りで、健気である。魁春の千歳、三津五郎の三番叟。三津五郎は緩急自在の踊りで、五穀豊穣を祈ってめでたく舞い納める。
幕が開くとセリで四人が登場する前に、大向こうから「天王寺屋!」の声が盛んにかかっていた。無念にもこの舞台に出演することなくして逝った富十郎を悼む鎮魂の掛け声と聞こえた。
昼の
『寿曽我対面』は本来なら切りに持ってくる狂言ではないが、吉右衛門の工藤祐経、梅玉の十郎、三津五郎の五郎が揃い、ほかに芝雀、巳之助、歌昇、歌六なども手堅く、今月一番の充実した舞台となった。初役の吉右衛門は座頭の貫目といい、風格といい申し分ない出来。この工藤で舞台が一段と大きくなった。
梅玉は持ち前の柔らか味のある芸風が十郎によく似合い、品格も十分である。三津五郎は股を大きく割り、力強くもまた荒ぶる五郎になっていた。台詞回しも意図してやんちゃな子供のようにしているのが、この役に相応しい。
昼夜にわたり大活躍なのが團十郎である。昼の
『妹背山婦女庭訓』での鱶七実は金輪五郎今国の豪放さと時代世話の明るさ、夜の
『実盛物語』の情理兼ね備えた捌き、そして大らかさ、と二つの役は今の團十郎の持ち味が十二分に発揮された名舞台となった。
妹背山の福助のお三輪は求女を恋い慕う女心の激しさとじっと耐える役を好演していて、この人なりに成長の後を見せた。東蔵の豆腐買おむらは、もっとアクが強くてよかったと思う。
『実盛物語』は、市蔵、右之助夫婦が好助演で盛り上げたことに加えて、子役が達者な演技であるから、團十郎も義太夫の弦に乗って、口跡爽やかに気持ちよさそうに演じていた。福助の葵御前は威厳を出そうとするのか、台詞がやや作り物めく。段四郎の瀬尾十郎は敵役の大きさと憎々しさ、そしておかしみと小万と孫を思う情の深さは天下一品である。魁春の小万は出番も少なく難しい役であるが、一通り。