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評価:
渡辺 淳一
文藝春秋
¥ 1,680
(2011-06)
Amazonランキング:
529位
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世に名高い白河法皇とその鍾愛を一身に受けた待賢門院璋子(たまこ)の生涯を描いた王朝恋愛小説。この二人の愛は、いかに男女の愛に寛容な時代であっても当時としても一大スキャンダルであったろう。しかし、時の一大権力者である白河法皇がその主であれば誰も諫言できなかったのであろうか?しかし、璋子はその一生を見れば「花の生涯」とでも言うべき華やかな生涯を送ったが、白河法皇の子供として崇徳上皇を産み、また鳥羽法皇の子供として後白河法皇を産んだことが、後の保元・平治の乱の遠因を作るのである。
渡辺淳一の新作長編は、故角田文衛氏の名著『待賢門院璋子の生涯 椒庭秘抄』 (朝日選書 (281)に触発されて、資料として活用させていただいたものであることが参考文献に書いてあるので、期待して読み始めたが、途中で放り出したくなった。それは渡辺氏の描写が主人公二人の愛欲の場面やお付の女房たちとの会話を除き、ほとんど角田文衛氏の叙述の引き写しであり、とても創作と呼べる代物ではないからである。たとえ、歴史的著作と小説の違いはあってもこのような書き方が盗作と言われないことが不思議である。
璋子の入内、立后の場面などは原典史料が同じだとは言えても、作品の構成と叙述がまったく類似している。両書の末尾近くの部分を一例として挙げる。
平安朝末期、十二世紀前半に栄華に満ちた一生を終えた待賢門院璋子の生涯は、まさしく「花の生涯」そのものであった。
その前半生は時の最大権力者、白河法皇様の圧倒的な愛につつまれ、女としての栄光の階段を駆け上がった。
この間、十代半ばから二十九歳までのほぼ十五年間、法皇さまはまさしく璋子の恋人であり愛人であり、父であり師であり、後見人であった。
(『天上紅蓮』359ページ)
十二世紀の前半にその哀歓にみちた生活を送った待賢門院の一生こそは、まことに『花の生涯』であった。
女院は、その前半生においては白河法皇の暖かく逞しい翼に抱かれ、栄耀に溢れていた。法皇は、女院にとっては父、師、愛人、つまり総てであった。
(『待賢門院璋子の生涯 椒庭秘抄』295ページ)
渡辺氏お得意の愛欲場面の描写も例によって品格がなく、角田氏の陰影ある叙述が『待賢門院璋子の生涯 椒庭秘抄』が名著であることを再認識することで終わった読書体験だった。