俳優祭は歌舞伎ファンの方々と役者さんたちの楽しい交流の場として、多くのファンに人気のある公演です。二年ないしは三年に一度の開催で、しかも僅か一日限りの公演。電話予約でのチケットの確保は毎回困難を極めます。
今回は昭和51年1月以来、実に37年ぶりに国立劇場での開催となりました。歌舞伎座建て替え期間中の東京での歌舞伎公演は新橋演舞場が代替の常設劇場として位置付けられていますが、何と言っても観客収容数が多くありません。ですから、国立の大劇場が公演場所として選ばれたのだと思われますが、そこは独立行政法人が運営する施設ですから、残念ながら歌舞伎座の時のように一日二回公演とはならず、今回は夜の部一回限りとなりました。
しかも、幕開きは華やかな舞踊が選ばれることが多いのですが、今回は若手花形の技芸の研修発表として『絵本太功記十段目』尼ケ崎閑居の場が選ばれました。このような演目選定は国立劇場側から開催を引き受ける一つの条件になっていたと推量するのは穿ち過ぎでしょうか?しかし、70分強のこの演目は俳優祭としては重過ぎたように感じられました。
また国立劇場内外には「俳優祭」の看板らしきものはなく、場内の飾り付けも模擬店を除けばお正月そのままのものでしたから、ややお祭りの華やぎに不足しています。タイムテーブルも手書きというのには驚きました。
『絵本太功記十段目』尼ケ崎閑居の場
竹本喜太夫の語りで、本公演そのままに演じられました。染五郎の光秀は、隈をとった顔と立ち姿に大きさを感じさせたのは収穫だと思います。これから徐々に荒事にも役柄を広げてゆくきっかけにもなるでしょう。
七之助の十次郎が愁いがあって、またすっきりとした容姿ではまり役でした。孝太郎、梅枝はとくに可もなし不可もなしで、難しい役ではあるのは承知していますが、あまり印象に残りませんでした。
松緑の久吉もまだ貫目が不足しています。亀三郎の正清は舞台映えする点を買います。