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評価:
春日 太一
PHP研究所
¥ 819
(2013-01-17)
Amazonランキング:
1357位
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時代劇を中心にした日本映画に関する著作を精力的に発表している春日太一が、仲代達矢研究を進めてゆく過程で仲代達矢ご本人に合計十五時間弱取材してまとめた、いわば聞き書きでできあがったのが本書です。
本書の構成は以下のとおりです。
序章 役者になるまで
第1章 俳優デビューと『人間の條件』
第2章 黒澤明との仕事ー『用心棒』『椿三十郎』『天国と地獄』
第3章 京都の撮影所と時代劇ー『炎上』『鍵』『股旅三人やくざ』『切腹』
第4章 仏の喜八との日々ー『大菩薩峠』『殺人狂時代』『激動の昭和史 沖縄決戦』
第5章 成瀬巳喜男、木下恵介と女優たち
第6章 前衛、左翼、俳優座
第7章 五社英雄と名優たちの情念ー『御用金』『人斬り』『闇の狩人』『鬼龍院花子の生涯』
第8章 黒澤明と勝新太郎ー『影武者』『乱』
第9章 小林正樹の挫折、映画界の黄昏ー『上意討ち』『怪談』、幻の『敦煌』
おわりにー仲代達矢(ご本人によるもの)
この構成を見ても分かりますように、仲代達矢が付き合った監督と共演者を柱にして、その役者人生を語った興味溢れるエピソード満載の、日本映画、それも時代劇好きにはたまらない本です。新書版約250ページにまさに仲代達矢の役者人生が凝縮されています。
仲代達矢は五社専属制の時代から、フリーの立場を貫き、しかも一年の半分を映画、もう半分を舞台ときっちりわけて仕事をしてきた人です。ですから多くの巨匠、名優たちとの交流が多彩に語られていますが、監督は『人間の條件』『上意討ち』『怪談』の小林正樹監督との付き合いがもっとも長く、また相性があったようです。そうは言っても黒澤明監督の名作群の撮影時のエピソードは面白くまた豊富で、とくに『影武者』はCGを一切使用しない大規模なもので、役者さんも命がけと思わせるものです。
また、特別な友情で結ばれていた岡本喜八監督、アウトローとしての五社英雄監督の破天荒な魅力を暖かく語っています。
共演者は三船敏郎を筆頭に勝新太郎、中村(萬屋)錦之助、丹波哲郎、三國連太郎などをはじめ日本映画の黄金時代を牽引した大スターとの友情と仲違いなどこれまた興味津々のエピソードばかりです。もちろん俳優座の先輩である小沢栄太郎、東野英治郎などや同期や後輩である佐藤慶、田中邦衛、平幹二朗、山崎努などとの交流も語られています。共演した女優については驚くほど醒めた目で見ており、もっとも魅かれた女優が夭折した夏目雅子であったとは意外でした。彼女の女優としてだけでなく、人間として魅力的だったと語っています。
役者仲代達矢が語っている言わば役者論で心にとどめておきたい点を二点あげます。
ローレンス・オリヴィエが役柄によって音程を変えなきゃいかん、と伝記で言っている点を引き合いに出して、役者は「扮する」以上地声だけではなく、十種類以上声を使い分けなくてはいけないと語っています。「楽器と同じですから、俳優は」
もう一点は原田芳雄を例にして、不器用だけれども存在感というか謎めいた役者がいなくなったことを懸念していることにはまったく同感です。