著者と菊之助との交友、対話録。著者が私的アドヴァイザーの立場で多くの菊之助の舞台に係わったことが分かる。『NINAGAWA 十二夜』もその大きな成果の一つ。
ここに書かれている数年は菊之助が意識して父菊五郎の後継者を目指して役柄を広げて来た時期。著者の著した
『菊五郎の色気』で祖父梅幸がいかに子息に七代目を継がせようか腐心したエピソードがあるが、それを知って菊之助は音羽屋の跡継ぎとしての意識がよりたしかのものになった形跡がある。この数年の菊之助の演じた役は初役の多さも含めて、目次の外題を見ても女形は立女形、立役も世話物から時代物まで実に幅広く、目を瞠るばかりである。
しかもそのどれも確実な成果をあげてるのだが、決して満足せず更なる高みを目指して真摯に取り組む。この自制心を著者は「菊之助の礼儀」と呼ぶ。最近の意欲的な舞台の数々はまた新たな挑戦を期待させる。四十までには新作を、四十を過ぎたら弁慶を!には歌舞伎への愛がある。
菊之助に対して父菊五郎はある意味では本人の自発性に任せ、女形の大役を玉三郎の教えを請わせるなど要所を押さえた指導をしていることも見逃せない。播磨屋を岳父としてその藝をも吸収しようとしている菊之助の今、そして今後を語るには本書は欠かせない本であろう。