徒然なる日々の条々を、六条亭が日記風に綴ります。本屋「六条亭雑記」もよろしく。
 
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【2018. 08. 18 (土)】 author : スポンサードリンク
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『吉野川』-秀山祭夜の部観劇記
『吉野川』終演!密度の濃い凝縮した二時間。ただただ圧倒されて、深い感動を覚える!歌舞伎、それも義太夫狂言の最高水準の舞台。これは絶対必見です!

初日終演直後のツイートで私はこう書きました。そして日が経つにつれて、その思いは揺るぎないものになっています。観劇された他の方々のツイートを拝読してもそれは裏付けられます。

吉右衛門さんと玉三郎さんが四つに組んで、この舞台を見せてくださったことにただただ感謝しかありません。とにかく最高水準の出来で二時間はあっという間です。吉右衛門さんの大判事のここぞと言う時に謳い上げる台詞回しは、義太夫狂言の醍醐味を満喫させてくれます。二度目の定高の玉三郎さんの物凄い集中力と情愛表現の深さにも感服しました。

思えば上演を待ちに待った演目でした。時代物の名作であり、舞台装置も歌舞伎ならではの大掛かりのもので、舞台一面に満開の桜、真ん中に吉野川が流れていて、両岸には不和の両家の屋敷があります。つまり観客は吉野川の川底からこの壮大な悲劇を観ていることになります。これぞ歌舞伎とも言えると思います。ところが過去には4〜5年おきに上演されていたものが、2007年からパタリと途絶えてしまいました。たとえ間に歌舞伎座の改築があったとはいえ、不思議でした。仮花道を設置しなければこの狂言はまったく体をなしませんから。両花道がネックだったか?と勘繰りたくもなりました。加えて、役者の数は、妹山の腰元を入れても僅か九人ですが、主役四人が役者としての大きさ、格と技量が拮抗していなければ成り立ちません。竹本も妹山、背山と分かれて語るという贅沢なものです。

ようやく秀山祭節目の年に実現しました!しかも座頭の吉右衛門の大判事、玉三郎二度目の定高、染五郎の久我之助、菊之助の雛鳥の恋人同士と言う今望みうる最高の配役で発表されたのです。それまでツイート等で吉野川上演要望をつぶやき続けてきたので、発表時は大袈裟に言えば狂喜乱舞(笑)。否が応でも期待は高まる舞台でした。

開演後も固唾を呑んで舞台に見入りました。舞台の真ん中に流れる吉野川を挟んで叶わぬ恋を嘆く二人。爽やかな中に憂いのある貴公子染五郎とたおやかで可憐な赤姫の菊之助。相手を思いやりながらもなんとかして添いたいという心情が切ない清純な恋です。

やがて両花道を使って吉右衛門と玉三郎が登場します(実際には少し大判事が先にでるというこころにくい演出です)。不和の両家に降りかかった子供の難題についての決意を肚に秘めつつ、台詞の応酬は聴き応え見応え十分で、オペラグラスをせわしなく右往左往させます。声を高く張った玉三郎の第一声「大判事様」を聴いた途端、あぁ気合いが入っているな〜と嬉しくなるほど素晴らしいものでした

すでに何度も演じている吉右衛門の大判事は、玉三郎の手強さを巧みに躱す老獪さも見せながらきっぱりと決意の一端を語る。二人の渡り台詞は緊張感に溢れていて、聴いていてゾクゾクとしました。ここには後の悲劇の伏線もあり、やがてそれぞれの屋敷に入り、下手の妹山、上手の背山と別れます。これから先は交互に、また並行して舞台は進みます。

玉三郎の菊之助の母娘は玉三郎は入内が決まったと語りながら、実は娘の首を差し出す決意をした母親の苦悩・悲哀を全身全霊で表現していて見事です!菊之助もその運命を嘆きつつ恋人のために命を捨てる覚悟をする健気さ・哀れさがあります。梅枝、萬太郎の腰元は仕事の多い役をこなしながら、主人思いの神妙さがよく出ていて、存在感がありました。萬太郎は普段立役ですから、まだまだ勉強すべきところは多々あるとは思いますが、自然体でよいと思いました。

大判事も事の顛末を語り、久我之助も潔く死を覚悟します。吉右衛門の哀しみを抑えた台詞回しと染五郎の清冽さが印象に残ります。妹山、背山同時に首を落とそうとするところは、分かっていてもハラハラする場面です。結局定高が先に雛鳥の首をうつのですが、吉右衛門と玉三郎の川を挟んでお互いに仕草で悲劇を知らせるところは、気持ちが通い合い胸うたれます。

有名な雛流しはもっとも哀切な場面。叶わぬ恋は二人の死で成就し、両家は和解するのです。吉右衛門の臓腑から抉り出したような哀しみ、嘆きと怒り、玉三郎の慟哭と祈り、観るものの心に深く刻印されます。若者の清らかな恋もどす黒い政治に蹂躙され、お互いを思いやりながら自己犠牲による死しかない不条理さ、悲惨さ!しかし、この幕切れは観るものを浄化させる力があります。

この吉野川は本年最高の舞台であるとともに、今後も語り継がれるべき名舞台であることを声を大にして言いたいと思います。待ちに待った甲斐があったというものです。

最後に妹山側、背山側と分かれて見事な掛合いを聞かせていただいた竹本の皆さんにも感謝したいと思います。

[背山]葵太夫、慎治
[妹山]愛太夫、淳一郎


【2016. 09. 04 (日)】 author : 六条亭
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