徒然なる日々の条々を、六条亭が日記風に綴ります。本屋「六条亭雑記」もよろしく。
 
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【2018. 08. 18 (土)】 author : スポンサードリンク
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『月光姫恋暫』-第38回俳優祭(その一)
3月28日(火)に開催された日本俳優協会再建60周年記念第38回俳優祭に参加してきました。観劇と書かず、参加と書きますのは、俳優さんたちとじかにふれあうことができる模擬店があるからです。

このため俳優祭のチケットの入手は毎度困難を極めるのですね。前回までは電話予約のみでしたから、とにかく繋がらない電話を必死にかけ続けるしかありませんでした。今回から幸いにもWeb予約が導入されましたので、その苦痛からは解放されました。しかし、発売開始から約10分程度で完売してしまったようで、入手難は相変わらずだったようです。幸運にも確保できたチケットで昼夜に参加しました。




さて、舞踊二題と模擬店は次回にしまして、まず切りの『月光姫恋暫』から。

この演目、俳優祭不朽の名作『白雪姫』、そして第35回俳優祭の『灰被姫』に続きかぐや姫を題材にしていて、姫もの三部作の完成となりました。脚本は『灰被姫』に続き中村京蔵と山崎咲十郎の手になるものです。いやがうえにも期待が高まりました。

しかし、今回は異例のことながら主役のかぐや姫らの配役が事前に正式発表されないまま、俳優祭当日を迎えました。最近は幕内側から役者さんの発信があるので、かぐや姫が猿之助、そして染五郎と勘九郎が主役との情報が流れていまして、事実その通りでした。

プログラムを購入してまず最初に確認したのがこの配役で、さて大幹部たちはとみると、かぐや姫の父母と思われる月宮殿の王と妃が仁左衛門と玉三郎で、これは久しぶりのニザ玉共演とはじめからハイ・テンションになりました\(^o^)/。そして、菊五郎の帝、吉右衛門の陰陽博士、梅玉の右大臣でした!

全体は全五場の構成となっています。
【発端 月光殿の場】
【第一場 洛北竹林の場】
【第二場 竹取翁館門前の場】
【第三場 竹取翁舘奥殿の場】
【大詰 ふじの山の場】

4月30日(日)にこの俳優祭のテレビ放送(Eテレ21時〜)もありますので、ネタバレにならない程度で気が付いたことを以下に雑感風に書いていきます。

まず外題でも分かるとおり竹取物語を物語の中心にしつつ、『暫』の要素が入り、それに加えてプッチーニの遺作オペラ『トゥーランドット』を綯い交ぜにしていることを特記しておきます。それも非常に巧みに取り込んでいます。したがって、普段オペラに親しんでいない方もこの芝居を楽しむには少なくともこの『トゥーランドット』のあらすじと登場人物だけでも読んでいただきたいですね。それによってこの演目が歌舞伎の新作としても十分に通用するものであることをご理解いただけるものと思います。

発端では暗くなった劇場内がぱっと明るくなるとそこにはたしかに仁左衛門と玉三郎が…(*^^*)。まことに麗しくまた威厳のある姿です。まるで昔映像で観た玄宗皇帝と楊貴妃のようです。しかし、衣裳などは『国性爺合戦』の甘輝将軍とその妻錦祥女に近いでしょうか。

かぐや姫の三人の官女(名前も『トゥーランドット』に由来します)が気性の荒い姫のためボコボコにされた状態でも修行のため地球へ行く姫に従うよう王と妃に命ぜられて、渋々と付き従います。亀蔵、猿弥、弘太郎の官女は最初から笑わせてくれます。

第一場では竹取の翁が天界から子供を授かる夢をみたことから、光る竹を探します。菊之助は昼に比べてよりヨロヨロと老けを強調していて、これがあの菊之助か!と驚きます。海老蔵の媼はごく普通ですが、台詞はいつもの海老蔵です(笑)。そこへ流浪の国主(彌十郎)と侍女(七之助)、『あらしのよるに』のがぶ(獅童)とめい(松也)がそのままの姿で現れます。これには観客は大喜びでした。さらに吉田松若(染五郎)と勘九郎(山男)、ついには竹の中からただならぬ光が放たれて、猿之助のかぐや姫が登場します。気位が高く、気性の荒い姫の設定ですから、顔もキツめに作ってあります。『滝夜叉姫』に近い感じで、妖気すら感じました。この九人が入り乱れてだんまりを見せますから、惹き込まれます。

引込みも堂々として怖いくらいの威厳のあるかぐや姫!その姫に一目惚れした山男勘九郎は、「君の名は。」とか、一躍大ブームになった『逃げるは恥だが役に立つ』(逃げ恥)の恋ダンスを取り入れた六方とか、流行り感覚満載でした。恋ダンス六方はキレがよく、よい見せ場になりました。外題にある恋は恋ダンスを想定していたものではと思います。

竹取翁館門前では、かぐや姫の婚活の条件が高札になっていて、イケメンの条件には笑いました。翁と媼夫婦はかぐや姫に手を焼いています。今日も今日とて姫の命で銀座にブランド品の買い出しとか。高札を持って引っ込む謎の男は、昼は幸四郎、夜は愛之助でした。愛之助は『コメディ・トゥナイト!』の格好で、松竹座にも来てね、と宣伝。

いよいよ奥殿では婿選び。東西南北の自称イケメン王子(左團次、鴈治郎、市蔵、中車) には官女から三つの謎がかけられます。三人の官女がなぜか赤い腹出しなので、すぐ暫のパロディと分かりますが、この謎がムチャクチャなことと、四人の答えが支離滅裂で爆笑の渦。四人とも首を切られてしまいます。(夜の部では左團次がお得意の下ネタを披露して、あらかじめ昼の部と差し替えてほしいと言ってましたが、はたしてどうなりますでしょうか?弘太郎もご愛嬌のトチリがあり、昼の部収録分が採用されるのでしょうか?)

これらを見ているかぐや姫はまさに氷姫。怜然と見守っています。繰り返しますが、この役は猿之助以外考えられないはまり役だと思いました。ただ、昼の部では完璧だった猿之助の台詞があやしくなり、扇をカンペよろしく見ながらの見得があったのですが、これは本当にあやしかったのか、それとも演技なのかハッキリとしませんでした。

氷姫は翁・媼の首をうつことを命じるのですが、そこへ「しばらく〜」の声が…。和藤内のような衣裳と鬘、そして竹を持って現れた勘九郎。自分も婿候補に名乗りを上げます。ここでもドラマ『カルテット』で満島ひかりが使って流行りだしたミゾミゾすると言っていました(笑)。同様に三つの謎かけが始まります。今度はかぐや姫からです。ここからの展開はほぼ『トゥーランドット』に近いと思いますから、歌舞伎としてはやや生硬に感じられるかもしれません。

三つの謎が解かれたがイケメンの条件を満たしていないため、かぐや姫は求愛を拒みます。そこで今度は勘九郎の方から自分の実名はとの謎かけを出されてしまい、慌てたかぐや姫は「誰も寝てはならぬ」と皆に厳命。これはトゥーランドットの中の名台詞ですね。連れてこられた彌十郎と七之助。七之助は口を割ると見せかけて主人のために自害します。七之助のクドキがあり、見せ場でした。七之助の役名龍野の名は『トゥーランドット』のリューから来ています。

ついにかぐや姫は求愛に応え、「あなたの名前は「愛」!」これも同じく『トゥーランドット』の名台詞ですね。ただ、勘九郎にいうと、奥様の名前にもかけているように聞こえました。かぐや姫の自分の美貌を嘆くくだりは夜はより強調されていて面白く、竹本・長唄(大薩摩)の両床まで、皆さん一斉に大きくコケていました。かぐや姫の側にいた官女の猿紫は屋台から舞台までころげ落ちてしまっていました。

お家再興の鏡を持っていたのが藪島入道竹斉(染五郎)であるとかぐや姫に名指しされます。この染五郎は『暫』の鯰入道にあたるのですが、ここでは筍の衣裳です。それからは染五郎は大忙し。一人で隈をひき、鬘をつけて、ぶっ変える。『積恋雪関扉』の関兵衛、『伽羅先代萩』の仁木弾正っぽくやっていました。引込みも猿之助の連理引きで三回も舞台に引っ張られました(『かさね』を想起)。三回目は今度の氷艶の踊りかとも思わせました。最後は『四の切』よろしく舞台背面に切ってあるところへ飛び込んでいました。夜は一度場所を間違えたふりを見せてからです。ドリフっぽいですね。何でもやりたがる染五郎の面目躍如でした!

評判を聞きつけた帝が右大臣とともに現れて求愛するも、修行が終わって月へ帰らなければいけないと断り、迎えの天女(魁春、雀右衛門、孝太郎、梅枝)が艶やかな舞を舞ううちに花道を引っ込みます。この月への帰還は澤瀉屋ならぜひとも宙乗りで観たいところでしたから、いささか物足りなかったですが、それは俳優祭ではないものねだりでしょう。この演目、一日限りでは勿体なく、澤瀉屋の興行にかけてもよいと思いました。

かぐや姫の遺したものの扱いを帝は陰陽博士に占わせます。そこでまさかの播磨屋の誰も寝てはならぬのひと節!大詰はふじの山が舞台転換でせり出してきて、壮観。これでメデタシメデタシのはずが、さらにまさかの音羽屋が台詞につまるパプニング。隣の播磨屋が笑いをこらえていたのが、ツボでした。

一旦幕が閉まった後再度上がると出演した方のみならずほとんどの役者さんが舞台に並び、梅玉さんの司会で、会長の藤十郎さんのご挨拶、理事長の菊五郎さんの御礼のご挨拶と手締めで今回の俳優祭も無事盛況裡に幕を閉じました。個人的には下手で水谷八重子さんと手を繋いで支えていた松緑さん、また音羽屋さんの右隣で仁左衛門さん、玉三郎さんがともに羽織袴で並んでいたのが印象的でした。とくに玉三郎さんがやや体を右に向けてニコニコしながら菊五郎さんを見守る感じが素敵でしたね。

(4月3日 一部誤記修正、記事の内容を補記しました)
【2017. 03. 31 (金)】 author : 六条亭
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